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December 12, 2004

モルフォチョウの翅の構造色

先週土曜日、日本鱗翅学会東海支部の総会兼例会に参加しました。ちなみに「鱗翅学会」は「りんしがっかい」と読みます。数年前、千葉県立博物館で鱗翅学会大会が開かれた時のこと。看板をためすがえす眺めていた二人連れから 「あのー、これは何と読んだらいいのでしょうか?」と聞かれたことがあります。また、その日の夜、千葉市内の居酒屋で開かれた二次会の帰りがけに、店員の方から、「ところで今日はどのようなお集まりだったのでございましょう?」と尋ねられました。「ええ、蝶の集まりだったのですよ」と答えると、即座に「ああ、お医者様のお集まりだったのですか!」と。 蝶は、「腸」と勘違いされたようです。恐らく、「鱗翅」は「臨死」と解釈されることの方が多いのではないかと思います。いっそ、「蝶蛾学会」と改名した方がわかりやすいのでは、と思う昨今です。

前置きが長くなりましたが、この日の特別講演は、木下修一さんの「チョウの構造色の仕組みーモルフォチョウと国内産のチョウー」。モルフォチョウの発色機構については、かなり古くから研究されているようです。近年は日産自動車の田畑洋氏研究グループの優れた論文も出ていて、今更何を追加することがあるのか?という疑問もあるようです。しかし、田畑氏グループの研究の主目的は、基本的には水質汚染が著しい染色に代わりうる代替技術の模索であったと思います。生物としてのモルフォチョウの構造色の本質に切迫したいという問題意識を持つのは、イギリスのVukusicさんであり、木下さん他であろうかと思います。木下さんは「構造色研究会」の主宰者でもあります。

モルフォチョウの発色の手がかりとなるのは、多層膜干渉と言われてます。田端氏らの研究も基本的にはこの考えに基づき、これを定式化したことに功績があります。しかし、なぜか日本光学会会誌に掲載された彼らの論文(Tabata et al., 1996)は、欧米の生物物理研究者からは不当に無視され、引用されていません。田畑氏らも帝人との共同開発で当初大変苦労したように、単なる多層膜干渉ではモルフォチョウのような広範囲角度での輝きは得られないようです。モルフォチョウの翅はほとんど平行でも輝くほど、強い光の拡散を実現しています。この発色の構造は、実はかなり複雑で、光学の基礎知識の無い私には数式の多用などでわかりかねます。ただ、こんな私でもおぼろげながらわかることは、どうやらモルフォチョウの鱗粉には恐るべき精緻なしかけがなされているということです。木下氏によれば、モルフォチョウの反射光が最も強くなるのは垂直に入射した場合で、480nmの波長だとのことです。しかしながら、これだけでは反射角度が限定され、モルフォチョウのように平面に近い角度まで青紫色が見えるということは無いそうです。広範囲角度まで光が拡散するには、多層膜の構造が一見規則的に見えながら、その実、光の「干渉」と同時に「非干渉」を共存させる絶妙な不規則構造を保持しているからだそうです。裏返せば、多層膜の構造はランダムでありながら、そこに一定の微妙な法則性があることが特徴で、それ故にモルフォチョウの翅はあのように青く輝くとのことでした。

なお、帰りの雑談では、人間の目に見えるコバルトブルーはさておき、チョウの目にはいったいどう見えるのかが話題になりました。480nmという波長信号は認知されても、人の目に映る色のように認知されていないのかもしれないとか、喧々諤々でした。果たして、どうなんでしょうか。

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