« オキナワルリチラシ営繭 | Main | 雨の日の虫屋はブルー »

May 29, 2005

桑の木

tent1amehitomulberry裏の川沿いに桑の木が一本だけある。今その木には赤い実がなり、鳥が実を啄ばんでいる。葉の一枚をめくると、アメリカシロヒトリHyphantria cunea (Drury, 1773)が産卵中だった。木の上の方では先に孵化した幼虫が集団営巣中。

桑の木を見ると、私は子供時代にワープしてしまう。今から半世紀ほど前になるが、実家の裏にも桑の大木があった。田舎でさしたる遊具もなかった時代のことゆえ、子供の代表的遊びは木登り、川遊び、隠れんぼや石蹴りだった。私はとりわけ木登りが好きだった。二階家よりも高い木によじ登ってあたりを見下ろすと、偉くなったような快感を覚えた。5月下旬から6月初旬桑の実が熟す頃、私は近所の友達と一緒に夕方遅くなるまで桑の木に登って遊んだ。木の枝をゆすったり、枝から枝へと飛んだり、大きな枝につかまってでんぐり返り。お腹がすくと、熟した桑の実を採ってはむしゃむしゃ食べる。夕方「ご飯ですよ」と言って母が迎えに来るまで、時間の経つのも忘れて夢中で遊んだ。桑の木は私にとって「お菓子の遊び場」だった。

ある日いつものように桑の木によじ登り、太い枝をみんなで思いきり揺すっていると、突然上から何かが落ちてきて背中に入り込んだ。その瞬間、刺すような痛みが走った。火の玉が入ったと思うほどの痛みに私は泣きながら家へ帰った。母はタオルを使って私の背中から「火の玉」を取り出してくれた。それは大きな赤い毛虫だった。背中は赤く腫れあがり、ヒリヒリした痛みが残った。けれども痛みが薄れると、懲りずに桑の木に登り、また赤い毛虫に刺された。私は毛虫が大嫌いになり、毛虫を見ると背中を刺された時のヒリヒリした感覚が蘇ってきた。図鑑に成虫写真と共に幼虫写真が掲載されているのを見ると、「なぜ醜いアヒルみたいな毛虫の写真なぞ載せるのだろう?」とおぞましく思ったものだ。

それから30年後、私は不思議なことに毛虫がしだいに好きになるようになった。さて、その毛虫の正体であるが、有力候補はあるものの、未だ特定できていない。5月下旬から6月初め、平地で見られるドクガ科幼虫で、赤い毛束や赤い斑紋を有する種には、マイマイガ、モンシロドクガ、ヒメシロモンドクガなどがいる。しかし、なにぶん就学前の子供時代のことゆえ、幼虫の形状、色彩や大きさについての記憶が曖昧だ。この時期フィールドでドクガ科幼虫の見事な毛並みを目にするたびに、「ふうーん、案外これが私を刺した毛虫だったかも?」と思うと、赤い毛虫の「原体験」が蘇えり、妙に懐かしくなる。Love-hate relationship というのは、かくなるものであろうか。

写真: 2005年5月29日名古屋市で撮影
アメリカシロヒトリHyphantria cunea (Drury, 1773)若令幼虫の集団営巣
桑の葉裏に産卵中のアメリカシロヒトリ
桑の実  


|

« オキナワルリチラシ営繭 | Main | 雨の日の虫屋はブルー »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 桑の木:

« オキナワルリチラシ営繭 | Main | 雨の日の虫屋はブルー »