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May 12, 2005

オオミズアオをめぐる想い

artemisオオミズアオActias artemis aliena (Butler)という蛾のことを初めて知ったのは、旺文社の『野外観察図鑑 昆虫』であった。そこに掲載されていた写真を見て、この世にはこんなに美しいものがあるものかと深く感動した。20年前のことである。ぜひ実物を見てみたいと思ったが、深山幽谷に棲む蛾で到底私には手が届かないものと半ばあきらめかけていた。私は松浦寛子先生の『オオミズアオの観察』(講談社 全集日本動物誌 26巻収録)を幾度も読み返し、この美しい蛾への想いを募らせていた。

丁度その頃、私はたまたま見に行った展覧会場で、ある名画と出会った。それは江戸時代の琳派絵師として知られる鈴木其一(すずき きいつ) の掛け軸。青紫色の燕子花の上を舞うオオミズアオの姿を描いた繊細かつ雅やかな作品であった。私はしばし息を呑み、燕子花と青蛾の清艶な世界に魅了されてしまった。その作品はバーク・コレクション(Mary Griggs Burke Collection)の一つであった。このコレクションはバーク夫人の確かな審美眼によって収集されており、その趣味の良さは比類ない。オオミズアオへの憧れは、この絵との遭遇によって加速度的に揚まってしまった。

その後、私は愛知県の里山でオオミズアオのメスを採集し、幼虫飼育の夢をかなえることができた。また、近似種オナガミズアオActias gnoma gnoma (Butler)の幼虫や成虫も採集でき、両種の卵や幼虫の違いについて実際に観察することもできた。採集経験が増えるにつれ、灯火に飛来するオオミズアオやオナガミズアオは翅をばたつかせる度に鱗粉が舞い、結構うとましい大型種であることもわかってきた。

今年久々にバーク・コレクションが里帰りするとのことで、再度鈴木其一の燕子花とオオミズアオの絵を見たいと期待を寄せていたが、残念ながら今回その作品ははずされていた。当時はオオミズアオだと思いこんでいたが、ひょっとしたらオナガミズアオだったのかもしれないとも。燕子花は湿地に咲くから、近くにオナガミズアオの食餌植物であるハンノキがあっても不思議では無い。だとすれば、オナガミズアオという可能性も十分あるではないか。私の妄想は勝手に膨らむばかりである。
    ぬぎすてし衣にとび来し青蛾かな   橋本 多佳子
写真は5月2日愛知県鳳来町で撮影したオオミズアオ♂成虫

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Comments

ひかり様、コメント恐れ入ります。松浦寛子先生が御逝去なされたとのこと、余りにもショックで私にはまだ実感が湧きません。
先生には本当にお世話になりました。先生の素敵な笑顔が私のなかでは輝いています。ご冥福を心からお祈り申し上げます。

Posted by: phasmid | February 28, 2021 09:36 AM

松浦寛子の姪、松浦ひかりです、はじめまして。2021.2.20に叔母が他界し、久しぶりに検索してこの記事にたどり着きました。嬉しくなりコメントしました。オオミズアオは神秘ですね。

Posted by: 吉森ひかり | February 23, 2021 03:19 AM

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