« ヒメジュウジナガカメムシの羽化 | Main | 名古屋にもいたナカグロクチバ »

September 16, 2005

日本一の「虫屋の女房」の自伝

ashiato日本の蛾類研究が今日のような発展を遂げたのは、井上寛・杉繁郎両先生の貢献があったからこそだと思う。『日本産蛾類大図鑑』と『日本産蛾類生態図鑑』は今や世界中の蛾類研究者の座右の書となっているが、これも御二人の活躍の賜物といえよう。特に日本蛾類学会の運営・発展への寄与は最も大きな功績の一つである。当初は理論面を大学人の井上先生が、会誌の編集発行と経理事務を会社勤めの傍ら杉先生が引受けられ、二人三脚で蛾類学会を支えて来られたが、後年は杉先生も運営面と共に研究面での貢献度が高い。

日本蛾類学会は学会と言っても個人商店的色彩が強い。事務局に電話をすると、品の良い女性の声で「杉でございます」という応答がすぐある。事務局は杉繁郎先生の御自宅であり、電話の声の主は美佐夫人である。あいにく先生が御不在でも夫人に用件を頼めば、てきぱきとした応対で、頼んだ文献、資料あるいは御返事が先生からすぐに来る。夫人は頼りになる秘書でもある。深夜電話をしても快く取り次いで下さる。日本蛾類学会事務局の家庭的な雰囲気は、夫人の御人柄に負うところが大きい。また、『蛾類通信』の発送、請求書の挟み込みなどの裏方仕事から蛾関係の来客の接待まで夫人は務め、学会に貢献してこられた。

先日、私のところに小包が届いた。差出人名を見ると、杉 美佐とある。これまで夫人からお葉書を頂いたことはあるものの、書籍小包は初めて。開けて見ると、なんと自伝であった。「蛾を愛でる」杉先生と結婚して今年で44年になるのを記念して自費出版されたという。自伝の第一部と第二部は満州での少女時代と戦後の生活のこと、第三部は虫屋の女房物語。第四部は欧州鱗翅学会や研究会に御夫妻で参加された時の海外旅行記。第三ー四部は蛾類学会を裏方で支えた夫人の目から見た日本蛾類学会裏話の一面も。なんといっても圧巻は杉先生がある日突然「会社をやめることにした」と宣言した時のこと。蛾研究一筋に生きるために何の相談もせずに退職を決めてしまったというのだ。夫人の驚き、怒りは激しかった。しかし、夫人の偉いところは先生の生き方を受け入れ、積極的に協力していることだ。私にはとても真似できない。夫人は「「虫屋の女房」は大変だったが、悪くなかった」と結ぶ。いつぞや夫人にお会いした折、「杉先生への愛が深いのですね」と褒め言葉の意味で申しあげたら、「愛だなんて、そんな薄っぺらなものじゃありません。もっと必死なものです。」という御言葉が返ってきた。いかにも率直で何事にも真摯な日本一の「虫屋の女房」の言葉らしい。

【題名】私のあしあと
【著者】杉 美佐
【出版】自刊
【発行】2005.09.10
【判型】四六判・257頁
【価格】非売品
【目次】
    第一部 私と「満州國」
    第二部 「引き揚げまで」とその後の生活
    第三部 結婚、家族のこと
    第四部 海外旅行
    付録  杉 盛道

|

« ヒメジュウジナガカメムシの羽化 | Main | 名古屋にもいたナカグロクチバ »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 日本一の「虫屋の女房」の自伝:

« ヒメジュウジナガカメムシの羽化 | Main | 名古屋にもいたナカグロクチバ »