« April 2007 | Main | July 2007 »

June 28, 2007

幼虫越冬するシロシタホタルガ

このところ真夏のような暑さ。この炎暑で、シロシタホタルガの卵が一斉に孵化した。3頭の母蛾から採卵したものだが、なんと全部孵化してしまい、幼虫の数はざっと見ても1000頭余。またたく間に、食草の葉には無数の食痕ができ、葉は透け透けになってしまった。手に余る数の幼虫に、嬉しいを通り越して、困惑してしまった。食草の調達も大変であるし、これから一年間の長丁場の飼育を考えると、気が重くなる。

Shiroshita_2今月中旬の夕方、いつもの雑木林を散策した。小雨混じりの天候であったが、蛾採集にはかえって好都合。そろそろ、シロシタホタルガの♀成虫が出現する頃である。食樹のクロミノニシゴリを見上げると、数頭の成虫の姿が目に入った。どうやら、羽化して間もないようである。木の周りをゆっくりと飛翔する♂の姿も見える。絶好のタイミングに来た、と確信する。きっと、♀成虫が食樹の周りにいるに違いないと思い、下草を探すと、すぐに新鮮な1♀が見つかった。近くで、さらに新鮮な2♀を加え、計3頭を持ち帰った。♀達は翅音も騒がしく、淡黄色の卵を連日産卵した。鮮度が良いので未交尾である恐れもあるが、そのうち1頭ぐらいは交尾済みだろうと読んだ。全卵孵化したところを見ると、3頭とも既に交尾済みであった。野外で採集する♀は、交尾済みであることが多い。しかし、シロシタホタルガは飼育下では容易に交尾しない。これまで何度も大きめの飼育箱に、羽化したばかりのシロシタホタルガの♂♀を放ってみたが、交尾行動を観察できたことは一度も無い。♀は産卵するが、卵は孵化しない。総じてホタルガ亜科の蛾類は飼育下で簡単に交尾するのに、シロシタホタルガはその例外で、飼育屋泣かせの気難しさんである。

ところで、シロシタホタルガの越冬態についてよく質問を受けるが、シロシタホタルガは幼虫越冬である。実は私も数年前までは、日本産蛾類生態図鑑(1987、講談社)の記述を鵜呑みにして、卵越冬だと思い込んでいた。しかし、春先に見る幼虫が大き過ぎ、かつ令数にばらつきがあることに疑問を持ち、昨年一年間、飼育と野外の両方から生態観察をしてみた。すると、若令幼虫で越年することがわかった。既に幼虫越冬であることを報じた文献があるのではないかと思って探してみたら、一つだけ見つかった。ただ、発行部数の少ない地方誌に掲載されたもので、ほとんど知られていない。図鑑の影響力は大きく、誤謬が流布してしまうので、ここで訂正しておきたい。なお、詳しい生活史は紙媒体にも投稿準備中である。

写真:シロシタホタルガ Neochalcosia remota (Walker, 1854) ♀

| | Comments (2) | TrackBack (0)

June 24, 2007

タケウチエダシャクの幼虫

タケウチエダシャクは4月に出現するシャクガだが、全国的にも産地が限定されている珍しい種だ。幼生期は長らく未知であったが、1993年にようやく中山紘一、竹束正両氏によって解明された(げんせい 63/64:31-35)。飼育下の幼虫の食草はヤマモモであった。終令幼虫は体長75mmにも達し、一見トビモンオオエダシャクに似るが、頭頂部の1対の角状突起の切れ込みがタケウチエダシャクよりも長い。幼虫屋なら、一度は我が手で飼育したくなるような姿である。

この4月のことだが、飯田市のSさんからメールを頂いた。「タケウチエダシャクの卵があるけど、飼育してみませんか?」と。願っても無いチャンスと喜び、私は浮かれ気分で即承諾メールを返信した。しかし、その後すぐに私はひとつ重要なことを失念していたことに気づき、自分の軽率さを後悔したのである。蛾類の幼虫期間は、幼虫越冬をするものを除けば通常1-2ヶ月だ。ところが、タケウチエダシャクの幼虫期間はなんと5ヶ月余もあるのだ。しかも、タケウチエダシャクの幼虫は湿度管理や給餌がむつかしい。私は泣きたい思いであった。

Takeuchiほどなくタケウチエダシャクの黄緑色の卵が送られて来た。数百卵はあったかと思う。私は孵化した幼虫に様々な植物を与えて大胆な食草実験を行なった。幼虫の喰いつきは異常なほど悪く、大半の幼虫が1令の段階で斃死してしまった。いくらなんでもおかしい、と思っていたら、問題は飼育容器の方にあった。一年間マダラガ幼虫を飼育して、青酸配糖体が充満した容器を間違えて使用してしまったのだ。孵化幼虫がバタバタ死ぬはずである。
生き残ったのは数頭だけ。早速、Sさんには正直に報告して、自分の不注意をお詫びした。賢明なSさんは、他にも飼育の達人達に卵を託しておられた。きっと、その方々が無事飼育羽化にこぎつけてくれることだろう。これでタケウチエダシャク幼虫の飼育から解放されると思うと、内心安堵の気持ちが強かった。ところが、親切なSさんは、御自分がクヌギで飼育していた幼虫をクール宅急便で恵送して下さったのである。

結局、数を減らしたタケウチエダシャクの幼虫は既知の食草であるヤマモモで飼育するという無様な羽目に。ヤマモモの分布や、幼虫の食いつき方が良くないことから見ても、少なくとも長野県や愛知県の個体群の自然状態の食草がヤマモモである可能性は低いと思うが、2ヶ月近く幼虫飼育して、ヤマモモが飼育に適した食草であることを感じた。葉の持ちが良く、頻繁に食草を取り替える必要が無いからである。ただし、幼虫は湿度に弱いので、飼育容器の蓋を朝な夕なと開けて、容器の底に敷いたキッチンペーパーを小まめに代える必要がある。
この先、どのくらい幼虫が生きるのかわからないので、この辺で4令幼虫の写真を公開し、Sさんの御厚意に深謝したい。

写真:Biston takeuchii Matsumura, 1931 タケウチエダシャク4令幼虫(体長約45mm)

画像は拡大できます

| | Comments (5) | TrackBack (0)

June 15, 2007

伊吹山のウスバシロチョウ

Usubashiroまだ蝶を知り染めし頃、ウスバシロチョウは憧れの蝶であった。その姿を図鑑で見た時、白と黒のデザインの斬新さに息を呑む思いであった。是非とも、この蝶を眼前に見てみたいという思いに駆られた。その上、食草のムラサキケマンは当時の私にとって未知の植物であった。このことが、私の想像力を一層膨らませた。岐阜県の平地では5月上旬に多産するとの情報を得て、伊自良村(現 山県市)へ出かけて見た。すると、村中何処にでもウスバシロチョウは溢れかえっていた。網を振っても一向に逃げる様子も無く、ただ悠然と浮遊するがごとく飛翔していたのである。余りの多さにあきれ返ると共に、この蝶に抱いていた幻想も忽ちのうちに消え失せてしまった。

Gunnaifuroあれから早20年余。各地でウスバシロチョウに慣れ親しんだせいか、胸が鼓動するような興奮を覚えることはもはや無い。しかし、今はこの蝶の味わい深さに改めて感じ入る。透き通るような白い翅、鮮明な黒い翅脈、その対照はまさに自然の妙。たおやかな飛翔の姿も、またよろしい。4月下旬に畑の葱坊主に寄るもの、5ー6月の山麓で遊ぶものやら、はては山頂に吹きあげられるものまで、生態もまさに多様で面白い。写真は、今年6月12日、伊吹山の山頂付近で、イブキガラシで吸蜜しているところを撮影したもの。当日はほぼ晴天で、ウグイスの声が朗々と響き渡った。山道沿いには、ヒメウツギ、ヤマボウシ、エゴノキの白い花が咲き、タニウツギの桃色花も色鮮やかであった。山頂付近には、グンナイフウロ(写真)、イブキハタザオ、イブキガラシ、ヒメレンゲ、ウマノアシガタ、クサタチバナの花々が咲いていた。

(画像は拡大できます)

| | Comments (6) | TrackBack (0)

« April 2007 | Main | July 2007 »