昼神温泉で見た蛾 (前編)
この秋、近場ということもあって、二度にわたって昼神温泉へ出かけた。単純硫黄温泉で、源泉からはツーンと硫黄の臭いがし、肌がツルツルになる湯であった。温泉にゆっくり浸かって疲れを癒すことが目的の旅だったので、昼神温泉界隈だけを少し周って、後は阿智川河畔を散策した。阿智川沿いの道にはサクラとハナモモが植栽されていて、夕食前に家族と一緒にのんびりと散策した。浴衣姿で連れ立って散歩する観光客の姿もあちこちで見かけ、いかにも温泉場らしい和やかな雰囲気であった。
サクラの樹を見上げると、クスサンの姿が目に入った。恐らくメスであろう。産卵中らしく太目の腹端を樹皮にくっつけながらゆっくりと上へ登っていく。夕暮れで撮影しにくかったが、何とかカメラに収めた。次いで別のサクラに目を移すと、樹幹に黒っぽい蛾が止まっていることに気付いた。後翅は見えないが、前翅に青白い輪を描いたような模様がある。あいにくネットを宿に置いてきてしまい、採集用具が無かった。かなり敏感で、2度シャッターを押すと、もう危険を察知してパッと飛び去ってしまった。どうやら、ワモンキシタバ Catocala fulminea xarippe Butler, 1877だったようだ。鱗片も剥げてしまって、ワモンとはとても思えないほどみすぼらしいボロ個体だ。
(写真:ワモンキシタバ 2007年9月25日 長野県下伊那郡阿智村智里で撮影)

昼神温泉は、ハナモモの里といわれるほどハナモモが多く植栽されているが、そのハナモモの葉上には、白いシャクガが静止していた。クロミスジシロエダシャク Myrteta angelica Butler, 1881である。前翅に欠損があるのが惜しいが、観光に来て被写体の選り好みする贅沢は許されないと思って撮影した。既に夕闇が迫りかけていたが、何かいないかと思って探していると、道端に咲くコスモスの周りに何か飛んでいた。そっと近寄ると、キンウワバが盛んにコスモスで吸蜜していた。採集していないので、きちんとした同定は出来ないが、イチジクキンウワバChrysodeixis eriosoma (Doubleday, 1843) のような感じがする。
(写真:クロミスジシロエダシャクとインチジクキンウワバ? 2007年9月25日 阿智村智里で撮影)
夜になって宿の露天風呂に行くと、誘蛾灯に大型の蛾が飛来したが、高いところだったので、採集はできなかった。また、露天風呂の照明にも中型の蛾が止まっていたが、採集用具が無くて逃がしてしまった。翌朝早く、今度は採集用具を忍ばせて露天風呂に行ったところ、蛾は既に飛び去った後なのか、はたまた鳥に捕食された後だったのか、もはや影形も無かった。とはいえ、山際の露天風呂は、虫好きの私には蛾の気配が感じられる夢のある処で、すっかり気に入ってしまった。
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