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May 20, 2008

南信州花桃紀行(後編)

 昼神温泉の楽しみといえば、硫黄の匂いのする湯と朝市。朝市は4-11月までは午前6時から開催され、新鮮な山菜、漬物、ジャム、味噌、蕎麦など、朝市に出されるものはいずれも品質が良く、値段も手頃だ。温泉に浸かった後、浴衣と丹前姿で気軽に行ける。阿智村、喬木村、高森町などの地元生産者からの出品が多く、売り方も決して押し付けがましさがなく、もの静かなところが良い。何度も行くうちに顔見知りの人もできてきた。いつも私は手に持てないほどたくさん買うが、どれも美味しいものばかりで、一度として後悔したことが無い。定番品はネット経由でも買えるが、山菜や期間限定の漬物などは朝市でしか入手できない。

Photo_2 昼神温泉に来た時には、たいてい飯田市と高森町へ立ち寄る。今回は母の希望で、元善光寺のすぐ近くにある竹田扇之助記念国際糸繰り人形館へ。人形館は麻績の舞台桜で有名な旧座光寺中学校の横に在った。麻績の桜は、先月私達が飯田の長姫桜を見に行った頃に満開だったらしい。樹形や幹が実に見事で、名木は葉桜になっても美しい、と思った。人形館は旧座光寺中学校の隣にあった。洒落た建物だったが、中に入って更に驚いた。花が活けられていて、それが室内空間によくマッチしていた。受付にいた初老の人品の良い方が、「今、小学生の生徒さん達がビデオを鑑賞中でして、それでもよろしかったら御入場下さい」と、もの静かな口調で言われる。「空いているうちに、先に人形の方を御覧頂いた方がよろしいかもしれません。」とのことで、展示室へ。展示室の小窓からは手入れの行き届いたお庭が見え、そのセンスの良さは心にくいばかりである。展示されている人形はいずれも素晴らしい糸繰り人形ばかり。頭が息を呑むほど美しく、気品が高い。これほど質の高い人形が展示されているとは思っても見なかったので、感嘆しきりだ。衣装の作りも丁寧で、色や柄は地味なのに艶やかだ。何よりも人形に合っている。特別展用に、たくさんの武者人形が飾られていたが、どれも素晴らしい。古典ものも、新作ものも顔が優しく美しい。
子供の頃、テレビで「西遊記」や「宇宙船シリカ」などの人形劇を楽しんだ思い出が一挙に蘇ってきた。

Photo_3 「伊達娘恋緋鹿子 火の見櫓の段」のお七の人形の表情は色恋が昇華し、崇高な観すら覚える。愛馬「あお」との別れの段、塩原太助の表情は慈しみに溢れ、主人を慕う馬の表情はもの哀しい。坂田の金時は元気漲り、一緒に相撲を取る熊は優しい表情をしている。余りにたくさん飾られていたので、かえって印象が薄れてしまったが、この人形達にまた会いたいと思った。家へ戻ってから、受付で貰った英文パンフレットに目を通すと、Don Kenny の平明な訳で、竹田人形座の歴史と活躍について記されていた。但し、その記述は1986年の公演で終わっている。竹田喜之助の不慮の死によって、一世を風靡した竹田人形座は休演を余儀なくされたからだとか。館内は恐らく撮影禁止だろうと思い、人形の写真は撮影しなかった。帰りがけに裏庭を散策すると、ハルジオンで吸蜜するダイミョウセセリを見つけたので、記念写真として添える。

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May 19, 2008

南信州花桃紀行(前編)

 昨年来より、南信州がすっかり気に入ってしまった。4月上旬、飯田市美術博物館で満開の長姫桜を見てから、昼神温泉で一泊した。昼神のソメイヨシノは未だ咲き始めで少し早すぎた。当然のことながら、花桃の方は固い蕾。5月の連休ぐらいが丁度花桃の見ごろらしい。しかし、シーズン中は大混雑が予測されたので、連休直後に宿を予約しておいた。花桃の最盛期は過ぎていても、元来花期が長い植物だから、少しは咲き残っている木もあるだろうと、楽観的に考えていた。そして、5月のゴールデンウィークを必死に働き、待ちに待った5月8日。母を誘って、きままな花桃見物の旅に出た。

PhotoPhoto_3 雨かと思っていた天気も曇りで、まずまずである。道も空いていて、目の覚めるような新緑の木々に絡まる藤の花や、たおやかな桐の花の薄紫色が美しい。途中のサービスエリアで早めの昼食を楽しみ、中央道「園原IC」に到着したのはお昼過ぎ。まず月川温泉の方へ向かったところ、月川温泉の花桃の花期は既に終わりかけだった。花は全体に薄墨色を帯びて、何やら物悲しい。盛りを過ぎた花桃に、人生の翳りを重ねあわせてみる。紫式部の時代に花桃があったなら、かの六条御息所は、この萎れかけた花桃の一枝に歌を添えて、つれない源氏の君に贈ったのかもしれない。そんな荒唐無稽なことを考えていると、車の前を白っぽいチョウが川沿いの道をのんびりと横切る。「あっ、ウスバシロだ」と、伴侶が車を道路脇に止める。ウスバシロチョウがたくさん飛んでいて、タンポポで吸蜜している。川岸の斜面には食草ムラサキケマンの花が咲いていた。よく見ると、ウスバシロチョウの他にツマキチョウも飛んでいる。普通種だが、両方とも大好きなチョウだ。この2種が見られるのは自然環境が良い証拠だ。

Photo_2 月川温泉の花桃が駄目でも、清内路街道の花桃は見頃かもしれないと思い、清内路の方へドライブを兼ねて走ってみる。標高が高いせいか、清内路にはまだ桜の花が残っていた。花桃は街道の所々に植栽されていた。花の色も濃く、木も月川温泉や昼神温泉に比べて大きい。「花桃発祥の地ー清内路」という触れ込みだが、期待を裏切らない。特に、清内路ふるさと自然村の花桃は色鮮やかで、大変美しかった。これで、お洒落なカフェの一つでもあれば、観光地として申し分ないところだが、残念ながらそうした店は一軒も無かった。

Auzata さて、清内路街道の途中で引き返し、昼神温泉へ来てみると、花桃はすっかり葉桃になっていた。少しぐらい花が残っているのでは、という淡い期待はものの見事に裏切られてしまった。よくよく考えて見るに、花期の遅い月川温泉でも遅かったのだから、それよりも低標高の昼神温泉の花桃が残っているはずはなかった。そもそも期待する方が間違いだったのだが、「桃源郷を母に見せたい」という思いが強すぎて、冷静な判断を欠いてしまっていたようだ。
夕方になって、近くを散歩。ミズキの葉を巻いた中に蛾の幼虫を見つける。Auzata superba (Butler) ヒトツメカギバだ。幼虫態で越冬し、春に摂食を再開する。特に珍しい蛾ではないが、幼虫を実際に採取するのは初めてだったので、ちょっと嬉しかった。

 
 

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